Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
昨年(2004年),嗅上皮における匂いの受容と嗅球への伝達メカニズムの解明の功績に対し,リチャード・アクセル教授とリンダ・バック博士にノーベル生理学・医学賞が与えられた。嗅覚のメカニズムの解明は,情動のメカニズム解明への展開を考えさせられる大きなテーマである。嗅覚は非常に原始的な感覚であり,外敵からの逃避,異性の識別など生物の生存に重要な役割を持つ。また,香りを嗅ぐという行為は呼吸と密接な関係にあり,呼吸活動も生命の維持には欠かせないものである。視覚,聴覚などの他の感覚とは異なり,生命維持に不可欠な呼吸になぜ「香りを嗅ぐ」という感覚を持ち合わせたのだろうか。他の感覚は目を閉じたり,耳を塞げば外部から遮断できるのに対し,香りを遮断することは,呼吸を止めることを意味する。生きることイコール呼吸することと考えるなら,香りを嗅ぎ,香りを感じることは生命をも意味するような気がする。
近年,ヒトの脳内活動部位を探る方法が開発され,嗅覚,および情動に関する研究が数多く報告されてきている。空間分解能にすぐれたこれらのPET,fMRIの功績はすばらしいが,どの方法にも限界があるように,時間分解能に乏しい。脳磁図(MEG)や脳波(EEG)の利点として,時間分解能の良さが挙げられる。また,脳内の電気現象をみることができる。EEGにおいて視覚,聴覚などの外部刺激による事象関連電位は多く研究されてきている。外部から何回もの刺激を繰り返し与えることによって,その事象に関連した電位は出現する。しかし,香りはどうだろうか。外部から何度となく刺激を繰り返さずしても,息を吸えば香るものである。呼吸して香る。いわば脳内で自動加算されるものである。本研究では,呼吸と香りをテーマに,それが脳内でどのように関連しているかを,脳波,および双極子追跡法の結果を基に考察した。
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.