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はじめに
脳機能画像は,1970年代のCT発明以来,さまざまな画像法が考案されて,コンピュータ技術の進歩に支えられ,大きな進歩を示してきた。いわゆるコンピュータ断層像,CTは,それまでのX線の断層像と大きく異なり,内部の組織のX線吸収値の微細な違いを,人為的な吸収度として表示できるようになり,脳梗塞,脳出血,脳腫瘍などの臨床診断に大きな威力を発揮した。しかし,このような段階では,脳の機能を画像化するということではなく,形態画像の意味合いが強かった。一方,同様の断層画像再生を用いて,ポジトロンCT(PET)により,脳血流や脳ブドウ糖代謝が画像化されるようになった。それまでも,ラジオアイソトープを用いた脳血流測定法はあったが,断層像として大脳深部,テント下の組織の機能測定はできなかった。1980年代になり,米国セントルイスのグループが,脳血流と神経活動のcoupling13)を利用した脳機能賦活試験をPETで行い,運動野や体性感覚野がどのような機能を有しているかを画像化することに成功した2, 3)。1990年代に入り,それまでに臨床診断に実用化されたMRIを用いた高速撮像法が開発され,fMRI(磁気機能画像法)が広汎に応用されるようになった。さらに,その信号強度の解析法として,SPM(statistical parametric mapping:URL http://www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm/)に代表される統計学を基礎にした統計画像法が開発されて,信頼性が高く,また全脳を対象として容易に神経活動の亢進部位を同定することが可能になったことが,fMRIによる脳機能研究の進歩に大きく寄与している。fMRIを用いる本法は,被曝もなく,繰り返し検査が容易であること,空間分解能が高く,時間分解能が比較的高いため,認知神経科学に興味を持つ研究者によって広く使われるようになった。さらに,この方法は,必ずしも特殊な超高磁場MRIを必要とせず,一般臨床に使われている1.5テスラのMRIでも実現可能であったことから,認知科学で広く用いられるに至った。認知科学の機能の局在研究は大きな進歩がみられ,それまでの神経心理試験の結果と病変部位の対比というprimitiveな方法から科学的な研究になった。現状では,このような脳賦活試験を正常者や老年者だけではなく,種々の神経疾患における認知機能の変容について研究することが可能になり,本分野の国際学会であるHuman Brain Mappingは1995年,国際脳循環代謝学会のサテライトシンポジウムとしてパリで開催されて以来毎年開催されているが,ほぼ1,000を超す演題が集まる大きな学会として行われており,注目を集めている。このような認知科学の著しい発展とともに,ポストゲノム時代の研究課題として,特に米国などでは,いわゆる分子イメージングがもっとも重要な研究課題として取り上げられており,国家プロジェクトとして研究に多大な研究費が投入され推進されている。分子イメージングは,分子の画像化だけではなく,蛋白や細胞の機能的側面を画像化して解明しようとするものである。日本は,すでに大きく立ち後れているが,これからさまざまな機会を捉えて,このような研究分野の発展を推進する必要がある。本論では,このような背景をふまえて,脳機能画像法による研究の現状とこれからの進むべき方向を考察したい。
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