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1990年11月18日,大阪の薬業年金会館において,思春期外来開設25周年を迎えられた大阪大学の主催で,藤本淳三,井上洋一両氏を代表世話人として当交流会が開催された。200人収容できる会場が前のほうを除いてほぼ満員であり活気に満ちていた。井上氏の話では150名前後の参加であろうとのことであった。演題は12あり,かなりしぼられたという印象を抱いた。これは前回演題数が多数におよび発表時間が1題15分と短く,当交流会の目的を果たせなかったという意見が多かったのを受けての配慮であろうと推量した。そのこともあって今回の交流会においては1題30分の持ち時間があり,発表20分,質疑応答が10分とかなり余裕のあるものとなっており,各発表に対して議論が深められていたように感じ,学会とは異なる当交流会の目的が果たされているという印象を抱かされた。
演題は症例検討が6題,調査研究が1題,多数症例による臨床研究が3題,治療論が1題という内容であった。病態としては摂食障害およびそれがからんでいるものが5題あり,それぞれ興味ある発表であった。横井公一氏の発表は対象関係の特徴を,乾 明夫氏らの発表は内科,婦人科との連携というリエゾン的観点から,鈴木智美氏らの発表は母子同席面接による治療的プロセスの展開を,浅井信成氏の発表はいわゆる『平凡恐怖』(下坂)の問題を,木崎康夫氏の発表は非行と抑うつがらみのケースを取り上げるなど,この病態のもつそれぞれの重要な側面が議論された。特に摂食障害の患者との面接では,いわゆる古典的な1対1の精神療法においては感情的なものが現れにくく治療が展開しないものである。そして,精神療法の中に現れない分だけ食行動を中心として病的な行動化が生じ,治療者はその対応に四苦八苦していくというプロセスをたどりやすい。私自身は面接が深まらないときにはなるべく家族同席面接することで内容を深めるようにしており,そのような場合,しばしば家族全体の問題が顕在化し,その問題を話し合っていく過程で患者が安定していくことが多いという印象を抱いている。鈴木氏らの発表はそのような体験と重なるものであり,今後,この種の病態に対してはこのような方向性の治療が本筋となっていくであろう。前川あさ美氏らの発表は,これまでのように子供たちが『なぜ学校にいかない,あるいは,いけないか』を問うのではなく,なぜ『いくのか』すなわち,登校へのモティベーションは何なのかを一般中学生に対して調査している点が斬新であった。その結果としては負の動機づけで登校しているものにいわゆる『不登校感情』が強く,不登校児童はその延長線上にありそうだというものであった。私自身,『自己意識』に関して一般学生の調査を行い,神経症状態にあるものと比較検討したことがあるが,このような一般学生の調査と臨床とを結びつけて考察していく方法は,発達課題を抱えている思春期の研究にとって今後一層重要なものとなろう。
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