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第15回青年期精神医学交流会は,横浜市立大学小児精神神経科,竹内直樹先生のご尽力により,1997年11月22日横浜市健康福祉総合センターで行われた。この交流会は各先生方の熱心な臨床報告に基づいて,自由で新鮮な討論が行われるという,学会とはまた性質の異なった経験交流の場である。筆者自身も以前交流会で報告する機会を得たことが,今も思春期青年期臨床を続ける励みになっている。それは交流会を始められた先生方と後の世代となる我々の共通の思いであろう。さて今年も多彩な報告と討論が行われたが,それぞれ演者にとって切実な臨床経験であることが伝わり興味深かった。演題は14題,発表討論で25分と時間配分に余裕があるのがうれしい。
「自分らしくなれる」ことは思春期青年期のキーワードであろう。正田せつ子氏「学生相談室を訪れた症例」は,女子学生のやや無理な留学の決意にとまどいながらも,それが本当の無理にならないよう柔らかく対応されており,学生相談らしく好感が持てた。自分らしくなることは本当に難しい。それは他者とかかわる自分を創る苦しさでもある。時にその歪みは精神医学的症状として顕在化する。乾真実氏「全生活史健忘の一例」,松永裕紀子氏他「解離性障害を呈したインシュリン依存型糖尿病の一例」は,解離症状を呈した女子中高校生の症例であったが,症状出現によってやっと彼女らのメッセージが治療者や家族に届き始めたと感じられた。思春期やせ症の治療経験,和田良久氏他「マラソン大会での敗北を契機に発症した前思春期神経性食思不振症の男子例」も,男女の違いはあれ同様の思いがした。家庭内暴力・自傷行為は思春期危機が最も先鋭化した現れであり,治療者をうろたえさせる。岩田卓也氏「中学女子境界例の一例の精神療法過程」は,入院による治療枠の設定が治療的に働いたことが述べられ,大畑美齢氏他「失神から飛び降り未遂に至るまでの行動を“問題視”された盲学校女生徒の症例」は,視力障害を持つ生徒への環境調整的手法が報告されたが,水野昭夫氏「往診という治療手段—その意味,有効性」は,危機介入の位置づけが不明確に感じられた。さて青年期の引きこもりは,上記の激しい行動障害と比べると一見正反対のようでも,本質的に表裏一体の関係にある。ただその治療には従来の精神医学的思考に,プラスアルファが求められる。井利由利氏他「虚構と現実の境界が曖昧な一青年男子の事例」は「茗荷谷クラブ」での治療実践から,篠原道夫氏「いわゆる『起立性調節障害』の思春期男子と心理療法プロセス」は,プレイルームでの相互交流過程から,阿部理恵氏他「休学中の思春期症例への“自己決定”までの治療的アプローチ」は,箱庭療法を媒介としてそれが語られた。西川瑞穂氏他「一女性にみる“近親相姦とカニバリズム”」はショッキングな題名であるが,謎めいた近寄り難い雰囲気を漂わせる青年期女性が,象徴的に自分を語り始めた過程が印象的であった。精神病的自閉の世界も基本的にはこの延長にあるのだろう。櫛田麻子氏他「多様な恐怖症状を呈し長期間病室に閉じこもった一症例」は,境界分裂病患者の長期病室閉じこもりに根気よく対応した治療者が心強かったし,高田広之進氏他「親子3人で楽しく話せるようになるまで」は,病者の息子について朴訥に語る両親を暖かく見守る姿勢に共感できた。濱崎由紀子氏「両親の夫婦関係が思春期心理に及ぼす影響—フランスでの統計学的調査から」。日本での更なる調査を期待する。
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