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はじめに
小児科医から,児童精神科への要望というよりも,日本の精神医療体制全体への要望として書かせていただきたいと思う。筆者は小児科医であり,小児神経科医である。この10年間で重症の精神疾患を診療する機会が確実に増加した。これは,我々の教室が地域の児童相談所や教育機関と密接な関係にあることも一因であるが,小児の精神疾患も増加し,若年化し,重症化しているのではないかと思う。小児科は,小児専門施設でないかぎり,大学も一般病院も小児の全体を診療し,病棟管理も,年齢別の管理程度の区分である。医療のコストパフォーマンスを考慮すると,大学病院や一般病院の小児科に,精神疾患を管理できる病棟,病室を維持することは困難である。病室は感染症などでも使用可能であるから維持可能だが,看護体制が不可能である。悪性疾患,呼吸管理などの医療と同時進行で,行動が激化している精神疾患患者のケアをする体制を維持することは不可能に近い。にもかかわらず特にこの数年間は,自閉性疾患のacting-out,自殺企図,10歳未満の神経性食思不振症,性的虐待後のPTSDなどで入院する小児が急増した。解決策は2つ。小児の精神疾患診療施設を地域で持つか,大学病院などの総合病院の小児科,または精神科で,小児の精神疾患の管理ができるようにするかである。前者は今後真剣に検討し,実現されるべき課題であると思うが,実現は容易ではない。後者は,全体のコストパフォーマンスから考えると,より現実的解決策であるが,障壁は小児科内でも,精神科内でも小児の精神疾患を診療できる看護体制と医師の確保である。どちらにしても,小児は精神疾患を持ちつつ成人になるのであり,精神科内においても,成人発症の問題のみが診療対象であっては不十分ではないかと思う。思春期青年期の突発的に見える犯罪の背景には,精神発達障害があることが少なからずある。それらしき事件の報道を見るごとに,より早期に精神医療へとつながっていればと思うのである。あるいはつながったが的確なフォローを受けられなかったのかもしれない。その方がより重大問題である。
小児科医から見た,日本の精神医療への希望は2点。第1は,小児期発症の精神疾患への関心を高めていただきたいこと,第2は家族への関心を高めていただきたいことである。筆者に与えられた課題である「児童精神科医療への期待」とは多少ずれるが,しかし児童精神医学が発展し,地域がその恩恵を受けるためには,児童精神医学という講座があろうがなかろうが,精神医学界の中で,子どもの精神疾患,精神発達障害への関心が高まることが最も重要であると思う。
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