巻頭言
児童精神科とともに
本城 秀次
1
1名古屋大学発達心理精神科学教育研究センター 児童精神医学分野
pp.428-429
発行日 2010年5月15日
Published Date 2010/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101621
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名古屋大学と児童精神医学
学生時代に漠然と精神医学,なかでも児童精神医学をやろうと思っていた私に決定的な出来事となったのは,医学部2年生のとき笠原嘉教授が新しく着任されたことであった。当時笠原先生は44歳の若さであり,颯爽としていた。その講義は人を引きつける独特の間合いを持っていた。それで,この先生の教室に入ろうと決めた。
私にとって笠原先生が名古屋大学の精神医学教室の教授になられたのは全くの偶然であった。さらに名古屋大学精神医学教室に入って後,名古屋大学には堀要元教授という児童精神医学のパイオニアがおられ,1936年4月11日に「児童治療教育相談室」を開設し,わが国最初の児童精神医学の診療を開始されたことや,名古屋大学ではその伝統を受け継ぎ,児童精神医学の臨床が活発なことなどを知った。この事実も私にとっては全くの偶然であった。私にとって,名古屋大学医学部を受験したことは児童精神医学が盛んな大学だからとか,明確な目標を持っていた訳ではなく,ただなんとなく名古屋がよいのではないかと思ったからに過ぎない。自分にとって結果的にはそれが大きな幸運となった。このように,その時は何気なく自分にとって自然な道を歩いていると感じていたことが,後になってその選択が結局はベストであったということがわかるという体験を時にすることがある。現代はさまざまな情報にあふれ,情報の洪水の中で溺れてしまい自分がどうしたいか見失っている人も多いように思うが,むしろ,あまり情報に頼らず自分の感覚に従って行動するほうがよいこともあるように思われる。
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