巻頭言
精神療法再考—歴史の教訓
近藤 喬一
1
1大正大学人間学部
pp.572-573
発行日 1998年6月15日
Published Date 1998/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904557
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つい最近のことであるが「日本の心理療法」という表題の一書が刊行され,筆者はその中の森田療法の部分を担当した。また,今回が初めての試みであるが,一般のメンタルヘルスの専門家を対象とした,初心者向けの森田療法セミナーを4月から開講する予定である。この企画は森田療法研究会の主催にかかるものであるが,こうした二,三の出来事が身の回りに起こったこともきっかけになって,近ごろあらためて精神療法のあり方というようなことに思いをめぐらしている。
筆者は以前,森田療法の成り立ちについての論文を書いたことがある。その成立の前史にかかわる歴史的な事情を調べる過程で,いろいろと考えさせられることがあった。この治療法が我が国で生まれた独自のものであることは,ここであらためていうまでもない。しかし一方で森田は,彼自身の治療体系が確立するまでの約10年間,当時我が国に紹介されたばかりの催眠誘導法をはじめとして,様々な欧米の治療技法の効用を試したことがわかっている。その中にはDuboisの説得療法や,Déjerineのbedrest techniqueを含む治療法がある。これら2つの治療法には,前者が神経症患者に対して,苦しみの本態に関する辛抱強い論証と弁証法的・啓蒙的対話を強調する一方で,後者は医師—患者間の感情的関係の重要性を力説するという違いがある。しかし両者が,転移—逆転移という現象の発見を通じて治療者—患者関係の理論を発展させたFreudが出現するまでは,西欧ではもっとも広く普及した精神療法であったという意味での共通点がある。
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