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■はじめに
我が国において通例非定型精神病と呼ばれている一定の状態・経過像は,従来から世界各国の様々な学派によりそれぞれ様々な名称をもって記載され,様々な疾病論的地位を与えられてきた。これをKraepelinの(内因性)二大精神病の構想の枠組みの中に吸収しうるかどうかという問題は,今世紀を通じて精神医学の難問であり続けたのであり,また近年の新たな疾患分類体系の作成の作業においても大きな論争点の1つとなっている。別稿105)においてすでに指摘したことであるが,非定型精神病を疾患単位と認めるかどうかという問題は,一方では明らかに疾患単位一般の構成要件をどのように考えるかという点に収斂するのであり,また他方では内因性「定型」精神病とされている分裂病・躁うつ病の本質を,ひいては内因性精神病一般の本質をいかにとらえるのかという問題と分離できない。本稿ではこの二点を手がかりとして非定型精神病にあらためてアプローチすることにしたい。
近年のこの領域での研究の大多数は,いわゆる操作的診断システムを基礎におく実証的統計的研究である。内因性精神病に関しては今日に至るまで身体病理学的な疾病の本態が究明されていないがゆえに,大まかに言って,症状(症候群)とその経過の同一性に基づいて臨床単位が形成されてきた。それぞれの臨床単位が本来の意味での疾患単位なのかどうかということ,すなわちそれらがそれぞれ1つの共通の本質病態ないしは病因論を有するかどうかということが,従来の精神医学の最大の関心事となっていた。ところが長年の研究にもかかわらず,これらの臨床単位に対する生物学的ないし心理学的な特異的所見が見いだされなかったことから,伝統的に受け継がれてきた臨床単位を再検討しようという動きが生じ,近年の研究の大多数をそのような方向に向かわせているものと思われる。このような研究の方向性は,いわば経験論的な方向への時代の振り子の振れ(藤縄24))と一致したものであるが,しかしこれはまた同時に「精神病理学の危機」(Janzarik38))とも対応する傾向である。Janzarikによれば,精神病理学者の「現象にたちあっての本来の仕事は,さしあたり実践的応用とか,治療的進歩とか,社会的有用性を問わない」のであり,「まさにそのことによって精神病理学者は時代の精神と矛盾の中にいる」のである。
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