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はじめに
気管支喘息の診療は過去四半世紀の間に飛躍的な進歩を遂げた.すなわち,吸入ステロイド療法の恩恵がこの疾患を基本的に入院しないですむ疾患に変えた.患者の生活の質は大きく向上した.しかしながら近年,吸入ステロイドは喘息を根治させる治療ではないことが明確となってきた.例えば筆者らは成人気管支喘息患者で,少量吸入ステロイドのみで長期寛解状態にある症例について,治療を中止して観察する検討を行った.吸入ステロイドを中止してわずか3カ月で好酸球性気道炎症が再燃し,気道過敏性が亢進し,その多くが臨床的に喘息再発を来してしまった1).かかる再発に伴い,喀痰中IFN-γ濃度は変動を示さなかったがIL-4濃度は著明な上昇を来した1).すなわち,吸入ステロイドはその投与期間中は気道でのTh2免疫反応を抑制しているが,中止してしまえばTh2再活性化を招来することが確認された.吸入ステロイドは,この疾患の根幹的基礎病態である“持続的なTh2の病的活性化状態”を恒久的に寛解させるものでないと認識されよう.
気管支喘息の多くはアレルギー機序を介する.アレルギー疾患の診療の原点は,病因アレルゲンの同定とその回避指導である.またおよそ日本以外のすべての先進国では,アレルゲン免疫療法(allergen immunotherapy)が専門的治療手段として確立・普及し,重要なオプションとしての位置づけが与えられている.一方で日本の治療現場ではこれらが重要視されているとは必ずしも言えないであろう.特に免疫療法に関しては欧米や韓国などと異なり,施行施設が少なく,その役割はきわめて限定的であるというのが現状であろう.
気管支喘息のなかで,アレルゲン免疫療法の基本的な治療標的はむろんアレルギー性喘息である.そしてアレルギー性喘息患者とは多くの場合,鼻炎や結膜炎などが合併する,包括・全身的な「アレルギー患者」である.したがって根本的で,かつ全身・包括的な治療法が重要視されるべきであろうし,国際的に,アレルゲン免疫療法にはその中核的役割が与えられているといえる.一方で日本のアレルギー診療の現場はともすれば薬物のみに頼りがちな面があるのではないか.ユニークではあるが,“ガラパゴス的”とも言えるのが現状ではないかと,筆者には思えるのである.
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