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第5回日本精神・行動遺伝学研究会は,例年より早かった桜がもうそろそろ見ごろという1997年3月29日に,大阪医科大学堺俊明教授を会長として,千里ライフサイエンスセンタービル(大阪)において約80名の参加を得て開催された。この研究会は,1992年に行動遺伝学研究会として旗揚げし,翌年に日本精神・行動遺伝学研究会として第1回の研究集会を開催している。1992年に旗揚げした当時は,その3年前に第1回のWorld Congress on Psychiatric Geneticsが開催され,世界は遺伝子レベルの研究に突入し,精神疾患の病的遺伝子の探索が盛んに行われていた。しかし我が国では,まだまだ精神科遺伝の研究者が少なく,遺伝子の研究も緒についたばかりで,研究会の参加者もわずかに20名足らずであった。それでも,発表する機会の少なかった精神科遺伝学に関心を持つ研究者が集まり,十分な時間をとって討議できたことは大きな喜びであった。その後我が国の精神科遺伝学,ことに遺伝子レベルの研究は急速に進展し,本研究会の直前に開催された日本生物学的精神医学会では演題数が20題以上に上っている。
さて今回の研究会では12題の発表があった。このうち11題は遺伝子を解析した分子遺伝学,1題が双生児を対象とした臨床遺伝学である。まず感情障害では,帝京大学功刀浩氏らがセロトニントランスポーター遺伝子,大阪医科大学姫井昭男氏らがセロトニン1A受容体遺伝子との有意な相関を報告した。セロトニン系と感情障害との関連は,従来より指摘されており,今後さらに詳細に遺伝子レベルでの解析が進められるものと期待される。また滋賀医科大学加藤忠史氏らがミトコンドリア遺伝子,愛媛大学中村雅之氏らが21番染色体のマーカーとの相関研究を報告した。山形大学奥山直行氏らは抗うつ薬による副作用とチトクローム遺伝子との関連を報告している。精神分裂病については,愛媛大学小谷泰教氏らが6番染色体のマーカー,産業医科大学新開隆弘氏らがセロトニン2A受容体遺伝子,昭和大学坂井俊之氏らが神経栄養因子との相関研究をそれぞれ報告した。長崎大学今村明氏らは,双生児の不一致症例について,組内のゲノム構成の違いを新しい手法で解析し注目されていた。横浜市立大学丸山泰子氏らは,ミトコンドリア遺伝子変異の表現度の差異を脳内循環代謝状態から解析し,産業医科大学大森治氏らは遅発性ジスキネジアとチトクローム遺伝子との相関を報告している。また大阪医科大学横田伸吾氏らは,精神分裂病の別居一卵性双生児という極めて希な症例を報告した。全体に対象疾患や研究手法が幅広くなり,研究が着実に進展していること,また分子遺伝学も臨床面での観察が重要であることを痛切に感じた。
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