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■はじめに
ここではアメリカの最近の動向を報告するわけだが,筆者はニューヨーク州で長年にわたり精神保健にかかわってきているので,その変遷を肌で感じてきている。そこで,ニューヨーク州での動向が一応アメリカの動向の代表的な1例だという前提でレポートをする。
最近のニューヨーク州精神保健局のメイン・スローガンは「地域に根ざした総合的なケアのシステム(A Comprehensive Community-Based System of Care)」である1)。これは入院回避,短期入院と退院促進,そして総合的な外来ケアシステムを含む,「持続的重症精神病患者」(severe and persistant mental ill)のための総合的な地域での治療・ケアシステムの発展を意味する。「持続的重症精神病患者」の大半は,長期入院患者で,そのほとんどは分裂病圏の患者である。最近,ニューヨーク州に限らずアメリカでは中間期,慢性期の入院患者のほとんどは,すなわち重症の分裂病患者のほとんどは州立病院に入院しているので2),分裂病者の社会復帰に関するデータは州立病院に関するデータに包括されるだろうという前提で話を進める。
ニューヨーク州立病院は過去35年間に著しい脱入院化を経験してきている。1955年には93,000人だったニューヨーク州の入院患者数は1991年には12,000人にまで減少している。さらに,紀元2000年には7,000人程度にまで減少すると予測されている(ちなみに現在のニューヨーク州の人口は約1,800万人で日本の約1/6に当たるので,日本での精神科入院病床数は人口約350人に対して1の割合だが,ニューヨーク州で7,000床ということは人口約2,600人に対して1の割合である。)これも,分裂病患者の社会復帰を促進する「地域に根ざした総合的なケアのシステム」の発展を反映している。収容型ではなく,短期の入院病棟に加え,集中的外来と社会的サポートに工夫を凝らした治療プログラムが発展してきている。すなわち最近の分裂病を含む慢性精神疾患治療の焦点は患者の社会復帰,リハビリテーションなのである。そのために様々な地域での治療・ケアプログラムが作られてきている。
ここでは,ニューヨーク州の「地域に根ざした総合的なケアのシステム」の最近の発展の紹介を通して,そして最近の社会復帰に関する臨床的アプローチの発展のいくつかの例を用いて,最近の米国の分裂病者の社会復帰に関する政策とケアのシステムの発展をかいまみてみる。
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