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本稿の目的
非定型抗精神病薬の登場により,精神分裂病の治療には新たな展望が開けつつあるが,精神症状の改善にとどまらず疾病からの回復過程を援助する上では,生物・心理・社会的な視点から包括的な治療をすることの重要性はいささかも減じていないと思われる。本稿は,稲垣ら51)の治療抵抗性分裂病についての優れた総説に触発されて,書かれたものである。治療抵抗性分裂病の心理社会的側面に焦点を当て,その治療に的を絞って近年の動向を展望し,我が国において今後普及が望まれる治療法について提言したい。
これまで,薬物療法の導入に伴い長期転帰が改善していることが報告されている。1895年から1992年までの320件のメタ分析を通じて,Hegartyら39)は,20世紀前半(1895〜1955)には平均6年間の追跡期間後の分裂病改善率は35.4%であったが,後半(1956〜1985)には,48.5%と上昇しており,診断基準が広くなった影響とともに,抗精神病薬導入が大きかったことを指摘している(なお,ここ10年は再び36.4%に減少しており,Hegartyらは診断基準が厳密になった影響ではないかとしている)。またWyatt92)は薬物療法の経過との関係を解析した22研究をレビューして,初発の分裂病に早期から薬物療法を行うことで,長期的な改善が見込めることを指摘している。一方で従来型の抗精神病薬の限界も指摘されており,①5〜25%の患者が薬物抵抗性で73),②また5〜25%の患者が副作用などの理由で治療量を維持できず73),③再発防止効果というよりは再発延長効果といったほうが適切であること94),④陰性症状への効果が不十分,⑤長期維持療法には弊害のあることなどである。クロザピンをはじめとする非定型抗精神病薬によって,これらの限界のいくつかが克服されつつあるとはいえ,非定型抗精神病薬によっても本来の機能水準に回復しうるのはごく一部の人であるとの指摘がある55)。
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