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特集 精神医学と生物科学のクロストーク
精神分裂病の病因研究に関する私見
A Psychopathologist's Speculation on Physiological Co-etiology of Schizophrenia
中井 久夫
1
Hisao NAKAI
1
1神戸大学医学部精神科
1Department of Psychiatry, Kobe University School of Medicine
キーワード:
Differential circuit hypothesis
,
Barrier hypothesis
,
Assets and liability in survival rate
Keyword:
Differential circuit hypothesis
,
Barrier hypothesis
,
Assets and liability in survival rate
pp.599-607
発行日 1994年6月15日
Published Date 1994/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903674
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■はじめに
精神分裂病の病因研究に私が関心を持つとすれば,それは,治療との関連においてである。
しかし,病気の原因というものは,我々が素朴にこれと指摘できるものとは限らない。むしろ,そちらのほうが例外である。病気というものは通常,長い事件の連鎖あるいはパターンあるいは布置である。その中で不可欠な因子があれば,我々は,これを病気の原因という。感染症でも一発必中というのは狂犬病かラッサ熱ぐらいしか思い当たらない。
私が分裂病の治療に当たるようになってから,感じた疑問はかなり実際的なものである。
まず私は,分裂病というものがかなり特殊な病態なのか,それともかなり広く分布していて,その頂点が臨床的分裂病となっているのか,どちらであろうかと考えた。かつて,結核の場合は後者であって一次複合を肺に持つ者は持たない者より多かった。私は後者ではないかと考えた。その理由の一つは,これほど広範囲に広まって,しかも一般人口のあるパーセントだけが発病する病態だからである。もう一つ,もし遺伝性があるなら,どうして淘汰されてしまわないのかという「Huxleyの問題2)」をも考えた。つづまるところ,多くの人が分裂病にならずに済んでいるのはどうしてかということになるのかもしれない。
私の考えはすでにあちこちに書いたし,憶測の憶測の水準にとどまっていることは承知している。しかし,もう機会もそれほどないであろうから,あらましを述べておきたい。
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