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精神分裂病や躁うつ病とてんかんとの関係については,古来種々の議論がくりかえされている。ことに,分裂病とてんかんとの関係については,周知のごとく,Müller,Medunaらのごとく両者を拮抗的であると説くもの,Giese,Mollweideらのごとく両者の合併を認めるものなどがある。このような考えの根底においては,いずれも,分裂病とてんかんを単一疾患とみなしているといえよう。しかし,少なくともてんかんの側からみると,Jackson,Wilson,Penfieldらは“the epilepsies”と複数形でよんでいるが,原因的にも現象的にも種々さまざまなものがある。また,てんかん性精神病としても,分裂病や躁うつ病にみられるあらゆる症状や状態像が出現しうる。BumkeやVollandらののべているがごとく,てんかん性不気嫌症はてんかんの既往歴がなければうつ病と区別しがたい場合が少なくなく,また,てんかんで躁状態とうつ状態の循環する場合もある。てんかん性精神病に分裂病と区別しがたい状態像の出現することも周知のところである。このような場合,一般に既往においててんかん発作ことにてんかん性けいれん発作があつたか否かということに注意し,てんかん性けいれん発作があれば,てんかん性精神病と診断するのが慣例のようである。しかし,てんかん発作の原因あるいは本態としては,脳のdischargeまたは脳の電気的活動における発作性の律動異常dysrhythmia(Gibbs & Lennox)で,それは脳波に発作性異常波として表現され把握されるものであると考えられている。しかも,subclinical seizureという語の示すがごとく,脳のdischargeは必ずしも臨床的なてんかん発作として顕現するとはかぎらない。抗てんかん剤によつて臨床的な発作が消失しても脳波的所見の改善されぬ場合が多く,また,Lennox & Gibbsがてんかん患者の両親や同胞および子供らを調査した結果によればその60%にdysrhythmiaを認めたが臨床的な発作のあるものは2.4%にとどまつたという。一卵性双生児の一方にてんかん発作があり,他者には発作はないが脳波に発作性異常波形の出現するものも認められている。
以上のごとく考えると,分裂病あるいは躁うつ病の状態像を呈し,臨床的なてんかん発作はないが,てんかんと同様に脳のdischargeその他の身体的基盤を有するものの存在が期待されても当然であろう。一卵性双生児の一者がてんかん(大発作のほかに精神発作がある)で,他者には精神病状態だけが出現しているような症例が報告されているが(Rosanoff),かような事実も上記の期待を支持するものといえよう。
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