Japanese
English
短報
レンノックス症候群を伴った重度精神遅滞児における常同行為の観察—過渡的対象と不在の対象の出現について
An Observation of A Stereotyped Behavior in A Child with Severe Mental Retardation and Lennox Syndrome
兼本 浩祐
1
Kousuke Kanemoto
1
1国立療養所宇多野病院関西てんかんセンター
1Utano National Hospital
pp.79-82
発行日 1991年1月15日
Published Date 1991/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902983
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
■はじめに
精神遅滞あるいは自閉症の状態にある児童は時に儀式のように一定の行為を繰り返すことがあり,こういった常同行為は,自傷行為と並んで,養育上の大きな問題として古くから取り上げられてきた1,9)。これに加えて,近年,Rett症候群を代表とする特異な常同行為を特徴とする精神遅滞の一群が再評価されるようになり,常同行為の神経学的側面も注目を浴びつつある。この流れとは別に,常同行為の一般的発現機序としては,近年,「体内振り子(intrinsic oscillator)」説と「自己刺激(self-stimulation)」説が主要な仮説として提示され,両者に対して,前者を支持する論拠10),後者を支持する論拠3)の双方が提出され,多数の検討が既に行われている。しかし,他方で精神遅滞児における常同行為をなんらかの正常な発達過程の一段階への停滞として位置づける試みも伝統的に存在しており15,18),上記の二説と交錯しながら現在に至っている2,13)。我々は今回,口をすぼめて息を中空に吹きかけながらイスラム教徒風のお辞儀をするという常同行為をベッド上で一日中繰り返し,対人的興味を示さず,発語のほとんどないレンノックス症候群を伴った児童を観察する機会があり,緊密な接触によって,この儀式が過渡的対象17)といないないばあ遊び4)に深く係わっている可能性を見出した。本症例を通して,常同行為を観察する上での多元的観点の必要性を強調するとともに,Lacanのいうobjet aの成立8)と本児童における常同行為との関連について若干の考察を加えた。
Copyright © 1991, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.