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I.はじめに
「脳器質性」精神障害の問題は,いわゆる心身問題との関連を抜きにしては語ることはできないであろう。心と脳,身体が緊密に関連していることは否定し難い事実であって,古来いつの時代にも我我医師が日常の臨床の場で直接経験してきたことであるが,このような直接的経験の所与は極めて多種多様であって,知識論的検討を抜きにするならば,知の次元の混乱を招き思わぬ陥穽にはまるばかりであろう。このアポリアについてはいうまでもなく様々な見解(Blankenburg 1987,Degkwitz 1988)があるのだが,ここではBlankenburg(1982)に従って,少なくとも以下の8つの心身関係の様態を区別しておこう:1)心理学(精神病理学)的現象が身体的基盤によって説明される局面,2)主体が環境世界と関係をもつ場合の原点となる身体,3)感覚的経験の基盤としての身体,4)生活主体のアクチュアルなテーマ(苦痛,心気症,疾病否認)としての身体(情態性Befindlichkeit),5)主体の能動的行動Verhaltenの道具としての(超越された,アクチュアルなテーマでない)身体(身体の両義性ambiguite),6)主体の自己表出(身振り,表情など)の器官としての身体(ヒステリーなど),7)自己と社会(共同世界)の接合点としての身体(身振り,歩き方などへの社会的影響,大脳機制の文化的差異,反応性精神障害,心身症),8)パートナーとしての身体(脱緊張療法,運動療法など:身体から「学ぶ」)。
さて,「脳器質性」精神障害の問題は,Blankenburgの知識論的区別に従うならば,原理的には,1)の次元の現象様態に属するものといえようが,実際の臨床例では他の領域の問題を無視しきることは困難であり,更に脳は決して独立不変のものではなくdependent variableだという指摘(Bakker 1984:ecology of the brain)をも顧慮する必要があろう。以下本稿では「脳器質性」精神障害をめぐる諸問題を,Capgras症状とその関連症状をたたき台として再検討してみたいと考える。
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