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私どもの大学で次のようなことがあった。ある医学生から健康相談があり,面接したところ精神分裂病に罹患していた。彼の母親は既に分裂病であり,親の症状の重さ,経過の良くないことをつぶさに見ていたため,もし自分が分裂病になったら自殺したいと話していたことが後の面接でわかった。分裂病の親と同居し,自分自身の発症を恐れながら精神医学を学んでいたことを思うと,胸が痛むと同時に,教官として,精神科医として何もしてやれなかったことが悔しい。
精神保健に関する講演を依頼された。ある企業の社員を対象としたもので,講演の内容は精神保健一般に関するものであったが,良い機会であったので以下のような多少とも挑戦的なアンケート調査を試みた。すなわち現在のところ,精神疾患の発症を予防する方法は確立されていないし,早期発見のための検診もほとんど行われていないが,将来これらの方法が確立されれば検診などを受けたいかどうか,仮の話として問うた。調査結果は次のようであった。148人(参加者の約85%,男111,女37,平均年齢40.2歳)から回答があり,以下の割合で「受けたい」との希望があった。すなわち検診については痴呆で60.8%,うつ病で59.5%,分裂病で44.6%,予防については痴呆78.4%,うつ病70.9%,分裂病65.5%であった。年齢が高いほど痴呆に対する関心が高く,また女性は,いずれの疾患に対しても,検診を受けることを希望する割合が低いにもかかわらず,予防に対する関心は高く,特に痴呆の場合91.7%が予防を希望していた。痴呆の予防を除くいずれの項目についても10%前後の「どちらでもない」との回答と約5%の無回答があったが,これらの中には,検診などが仮に実施されるようになった段階においては「受けたい」と希望する者が含まれていると思われる。いずれにしても発症予防,早期発見に対する関心は高いと言えよう。
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