巻頭言
1990年代の夢MRS
高橋 三郎
1
1滋賀医科大学精神医学
pp.342-343
発行日 1990年4月15日
Published Date 1990/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902817
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精神疾患の本態の解明のためにはin vivoで脳内の物質代謝をはかることが必要である。これまで生きた患者の脳内で何が起こっているかは間接的に体液や死後脳の研究,または一定の仮説に基づいた負荷テストによるしかなかった。あるいは,動物の脳を用いた実験から,精神疾患の成因となる過程が推定されているに過ぎない。だからと言って,精神疾患の診療のためには診断基準だけ扱っていていいわけではない。
最近,脳の画像診断について次々と新しい技術が導入され,神経学の診断と治療に革命をもたらしたことは周知の通りだが,精神医学の領域でもCTスキャンなしでは通れない時代になっている。脳におけるセロトニン代謝を知る目的で脳脊髄液中の5-HIAAを定量していたのはわずか十数年前のことであったが,腰椎穿刺による脳脊髄液中の5-HIAAは,ほとんどが脊髄腔から由来する末梢性のものであることがわかった。あるいは,頸部動静脈から得た血漿中MHPG濃度を比べた結果,末梢血から得た所見でも脳内ノルアドレナリン代謝を反映するよい指標だと主張され,MHPGが盛んに研究された年代もあった。しかし末梢血中のMHPGの大部分は末梢由来で筋肉運動負荷により著増する。こうした研究は,科学が発達するプロセス上の出来事として捉えれば,無駄と浪費を重ねたわけではない。
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