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はじめに
1980年以降,DSM-IIIに代表される操作的診断基準が一般的に用いられるようになり,児童期,青年期に症候群としての感情障害が高い頻度でみられるという報告が,特に欧米で目立つようになった。診断基準も臨床データの集積によって改訂され現在に至っている。この操作的診断基準にあてはめて,さらに合併診断(例えば行為障害や注意欠陥多動性障害など)も含めて診断すれば,その数が増加していくのは当然のことともいえるだろう。確かに,現在の子ども達を取り巻く環境は悪化の一途をたどっている。家族の崩壊,離婚率の上昇,児童虐待の増加,教育の荒廃と数えあげればきりがなく,明るい気持ちで子ども達が成長できない条件がそろっている。この意味で「うつ状態」の子どもが増加しているということは十分にうなずける。Mcknewら77)は,子どもの感情障害の要因として家族の崩壊,離婚とつれ子,別離,喪失,軽視と拒否,両親のうつ病などを挙げ,村田83)は,がちっと決められた学校や社会の枠組にうまく入り込むか,否定的同一性を求めて逸脱行動に走るかあるいはうつ病になるかの選択しかない子どもの置かれた現状について論じている。しかし,このような背景の中でほんとうに児童期,青年期の感情障害が増加の一途にあるのだろうか。また,成人の診断基準を特に児童期の感情障害にどこまであてはめることが可能なのだろうか。いくつかの疑問が浮かび上がってくる。
Cantwellら18)は,児童期のうつ病に関する文献を展望し,4つの考え方があると整理している。①超自我が形成されていない子どもに成人と同じうつ病は存在しないとする考え方,②子どもにdepressive syndromeは存在するが,子ども特有の症状が出現するという考え方,③子どものうつ病は,多動や攻撃的行動などでマスクされるという考え方,④子どものうつ病も成人と同じ基準で診断できるとする考え方。そして,この④の考え方が支持されて増加している研究を概観し,成長していく子どもの発達的変化をとらえた研究の必要性を強調している。宮本80)が,かつてKraepelinの時代に緻密にまとめあげられた躁うつ病という疾患が,目立ってその範囲を拡大しながら,しだいに疾病的内実を薄めていること,内因性と心因性の違いも以前のようにあまり顧慮されなくなってきていることを批判しているが,同感である。このような疑問を前提としながらの展望であることをお断わりしておきたい。
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