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桜の季節の始まりに第22回日本生物学的精神医学会は,2000年3月30日から4月1日の3日間にわたり,東邦大学医学部精神神経医学講座鈴木二郎会長のもとで,花の名所千鳥ヶ淵の傍ら,日本都市センター会館において開催された。分子生物学・遺伝学の進歩により心の病の原因に迫れる時代が近づいてきたとの大会長の思いから,本年度のメインテーマは「精神疾患の原因」であり,このコンセプトをもとに各企画がなされたと聞く。
大会初日の若手プレシンポジウムでは,大久保善朗(東京医科歯科大),加藤忠史(東京大)の発案により「病因解明への新しいアプローチ—夢と未来と現在」のテーマにて,分子生物学的なものから脳コンピューターの話まで広く取り上げられ,今後の研究のストラテジーを概観する形で行われた。須藤康彦(放射線医学総合研究所)は「レセプターイメージングの最近の進歩」と題して,ワーキングメモリーとD1受容体数の変化をPETにより測定し検討した。渡辺英寿(東京警察病院)は「近赤外線非侵襲脳血流マッピング法による脳高次機能の解析」として,今までにない簡便な方法で,無侵襲,リアルタイムで脳血流が測定できることを紹介した。角谷寛(Stanford大)は最近話題になっている「ナルコレプシーの遺伝子解析」について発表し,クローニングにより典型的ナルコレプシー犬で原因遺伝子がOrexin/hypocretin受容体D2であることを,さらにヒト孤発例の脳脊髄液においても同様の異常を発見したとする内容であった。今後,精神科領域でも応用が期待される「マイクロアレイとトランスクリプトーム解析」の話を田中利男(三重大)が提供し,最後に松本元(理化学研究所)が「脳型コンピューターとその精神医学への応用」のテーマで,もしコンピューターにヒトと同じように生存目標を与えておけば,ヒト以上に優れた手段を生み出していくことや,コンピューターに感情を作ることが可能であることを示し,その開発には人の心の病の十分な理解が重要であることを指摘した。
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