- 有料閲覧
- 文献概要
第12回日本生物学的精神医学会は,1990年3月29日,30日の両日,滋賀医科大学高橋三郎教授を会長として,桃山破風の優美なたたずまいを残す琵琶湖ホテル(大津市)において開催された。年々参加者や演題数も増えて,本学会では一般演題数は121題にのぼり,うち口頭発表がA,B会場合わせて89題,ポスターは32題で,この他にシンポジウム4つと教育講演1題が行われた。
この中で主なテーマを取り上げてみると,うつ病に関する生化学的研究では,先ずBritish Columbia大学H. C. Fibiger教授により“Dopaminergic Mechanisms of Antidepressant Treatment”と題して,教育講演が行われた。アンヘドニアをうつ病の主要症状として捉え,中脳辺縁系のドーパミン系(A10)をターゲットとして,抗うつ剤の慢性投与やECTがこの活動性を高あることを行動学的,電気生理学的,生化学的な研究から明らかにした。これは新しい視点からの研究であり,うつ病の全てを説明することは困難であるにしても,日本でのうつ病の生化学的研究がセロトニンやノルアドレナリンに偏りがちであることを考えると,大変興味をひかれる内容であった。その他,季節性うつ病やリズム異常に関する研究が盛んに行われるようになり,シンポジウムでも取り上げられた。多施設共同による日本の季節性うつ病研究の現状が報告され(佐々木),男女比が海外に比べ低いこと,光パルス療法が季節性うつ病に限らず抗うつ作用をもつこと(辻本ら)等の報告があった。臨床的研究では,末梢組織や内分泌的反応を中枢の“窓”として捉えた研究が増加している。特に血小板を用いて5-HT2,α2受容体の機能を調べる研究(森ら,菅野ら,加賀谷ら)が盛んに行われている。血小板の5-HT刺激によるCa++放出を調べた加賀谷らの報告では,5-HT2を介したこの反応がうつ病患者血小板で亢進していることが報告された。またうつ病患者の赤血球を用いた研究(吉牟田ら),内分泌反応(井田ら,岸本ら),バイオプテリンに関する臨床研究(橋元ら)もあった。基礎的研究では,受容体の数が必ずしもその機能を反映しないことから受容体の研究よりもセカンド・メッセンジャー(森信ら)や内分泌反応(穐吉ら)を介して受容体の機能を調べる研究に移行してきている。また,うつ病モデルの研究も盛んに行われており,新しい知見が示された(川口ら,内藤ら)。
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.