Japanese
English
特集 精神疾患の発病規定因子
病前性格は気分障害の発症規定因子か—性格の行動遺伝学的研究
Is Premorbid Personality a Biological Determinant of Mood Disorders ?: Human behavioral genetics of personality
神庭 重信
1
,
平野 雅己
1
,
大野 裕
2
Shigenobu KANBA
1
,
Masami HIRANO
1
,
Yutaka ONO
2
1山梨医科大学精神神経医学講座
2慶応義塾大学医学部精神神経科学教室
1Department of Neuropsychiatry, Yamanashi Medical University
2Department of Neuropsychiatry, Keio University, School of Medicine
キーワード:
Premorbid personality
,
Human behavioral genetics
,
Gene-environment correlation
,
Mood disorders
Keyword:
Premorbid personality
,
Human behavioral genetics
,
Gene-environment correlation
,
Mood disorders
pp.481-489
発行日 2000年5月15日
Published Date 2000/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902219
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はじめに—気分障害の生物学的構造
気分障害の脆弱性は遺伝子と環境により構築される‘脳構造’に内在化されるものである。この比較的永続的な成分(static成分)は,神経回路網,脳細胞とその構成物質の階層に局在すると考えられる15,16,18)。遺伝子の問題は後で扱うことにして,ここでは“環境”について若干の考察を加えておく。static成分にかかわる環境としては,主として脳の発達時期の環境(すなわち養育環境)が重要であると考えられることが多い。しかし脳の可塑性が作動し続けるかぎりにおいて,過度の心理社会的侵襲が度重なるならば,なんらかの病的な可塑性31)が発達後に生じても不思議はない。また,心理社会的侵襲が,液性因子などを介して,神経細胞を傷害することは事実であろうし,特定の神経細胞の死と再生にすら影響を及ぼす可能性も認められつつある。むろんこれらの環境因子が脳に与える影響の種類と程度は,ゲノム上の数多くの遺伝子との相互作用のもとに決定されるのであろう。さらにつけ加えるならば,老年期に初発する気分障害では,老化が招く多種類の異質な脆弱性も当然予想される。私たちは,このような複雑で異種なstatic成分を気分障害に認めないわけにはいかない。
一方,病相は,このstatic成分の上に,発症の引き金をひく因子により引き起こされる‘脳機能’の,一般的に,短期的・可逆的な変化(dynamic成分)が加わって生まれるものである。ここでいう発症の引き金をひく因子は,心理社会的環境因をはじめとして,内分泌障害,薬物やアルコールなどの物質,季節変動など多彩である。したがってその作用点は脳構造のあるゆる階層にわたりうる。
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