巻頭言
病気が見えるということ
大森 哲郎
1
1徳島大学医学部神経精神医学教室
pp.226-227
発行日 2000年3月15日
Published Date 2000/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902175
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正常と異常の境界というのはあるのですか,と医学生からよく質問される。答え方は場合による。こういう質問を受けるのは,多くは臨床実習のさいに特定の疾患や症例を話題にした後だ。その疾患や症例について比較的よく理解が行き届いた感があり,その上での質問であれば,境界は本当はあいまいなのだと正直に話す。糖尿病や高血圧にも正常とも病気とも言えない境界領域があるじゃないか,と付け加えて,境界上にある症例が時々あっても実際の診療には大きな支障はないことを納得してもらう。
しかし,経験上,この手の質問が出るのは,むしろ病気がまったく見えていない時である。例えば外来実習で,発症にいくらか誘因も関与する軽症うつ病を診た後である。気持ちが落ち込むことなど誰にでもあるのに,この精神科医はあっさり病気として片づけてしまった,という不満気な表情を隠して,どこからが病気なのでしょう,と聞いているのである。軽症でも,中途覚醒や日内変動などのわかりやすい特徴症状があれば解説しやすいが,そうでもないことも多いから,なかなかすっきり納得してもらえないこともある。
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