鏡下咡語
見えるものと見えないもの
五十嵐 博之
pp.708-709
発行日 1979年9月20日
Published Date 1979/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208955
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耳鼻咽喉科は,頭蓋内,眼窩内,眼窩内以外の頭頸部の諸種の疾患をとり扱つているが,これらの器官を神経学的にながめると,主として脳神経と密接に関係しており,脳神経の症候が諸器官に反映されることが多い。それ故神経学的立場より観察することは,病態を早期に把握したり,病巣局在診断のうえから有用なことである。とくに咽頭喉頭の知覚運動機能の観察は,額帯鏡を使用することによつて,より詳細に行なうことがてきる。脳神経の諸核は脳幹内に存在しているため,若干の解剖学的知識と錐体路症候など長い伝導路に対する検査法をもちあわせれば,脳幹の機能障害について有用な情報を得ることができる。また音声,言語障害などその病的過程のあるものは中枢神経系内に存在していても,音声,言語の表出には舌,咽頭,喉頭の諸筋を使用するため,これろの病態にたいする知識を持つことが望ましい。脳とか神経はただ見ているだけでは,その中で何か起こつているのかまつたく見当がつかない。米国では脳外科,耳鼻咽喉科,眼科よりなるNeurosensory Centerがあり,協力して卒中,難聴,盲の研究を進めているとのことである。最近は聴覚,平衡機能を主体とした神経耳科学的検査の進歩は中枢疾患の診断に偉力を発揮しつつある.治療法も耳鼻科的特殊性の開発に努力がなされつつある。また末梢神経障害は主として脳神経障害である。嗅覚,めまい,身体のふらつきと関係のある眼振や異常眼球運動,顔面神経障害,聴覚障害,舌,咽喉頭の運動障害など,耳鼻咽喉科と脳神経のかかわりあいは大変深い。それは一つの単位としていつそう発展が望まれる分野であろう。
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