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わが国においては,今後も高齢化が進み,2025年には高齢者の5人に1人,全人口の15〜20人に1人が認知症という割合になると推計されている。このような状況を鑑み,2019年6月18日に内閣官房長官を議長とする認知症施策推進関係閣僚会議から認知症施策推進大綱が公開され,認知症は「誰もがなり得る」ものと考え,「共生と予防」を柱に,わが国で取り組むべき方向が明示された。日本精神神経学会においても,これまで以上に多くの精神科医が認知症診療に参画することを期待して,認知症診療医認定制度が作られ,すべての会員に認知症診療医テキストが配布された。
認知症患者に対する診療には,精神科医とともに脳神経内科医,脳神経外科医,老年内科医,放射線科医などさまざまな診療科の医師が携わっている。これは,認知症の症状には認知障害,行動・心理症状(BPSD)以外に神経症状を認め得ること,脳神経外科疾患や内科疾患が認知症の原因となり得ること,診断には神経画像検査に関する専門的知識が必要であることなどによる。このように多くの診療科の医師がかかわる認知症診療において,精神科医が最も期待される役割はBPSDの治療である。特に重度のBPSDが出現し,薬物治療や入院治療が必要となった場合に精神科に紹介されてくることが多い。しかしBPSDは一度出現すると治療に難渋することが多いため,最も有効な治療法は,軽度の段階で発見し,悪化を防ぐことである。最近の研究で,BPSDは認知症の前段階である軽度認知障害の段階から出現していることが明らかになってきた。そこで認知症を早期に,診断した時からBPSDに対する予防と治療を開始することが重要で,その実現のために精神科医の早期診断への参画が期待されている。
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