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今秋は相次ぐ台風などによる災害が全国で発生しています。災害に伴うやり切れない思いが怒りとなることも少なくないと思われます。そのような折も折,「医療現場での怒り」と題した特集に12編の興味深い論文が寄せられました。その中では怒りをどのように評価するかに重点が置かれており,具体的な視点が提示されてもいます。たとえば,患者の怒りには「対象のない抽象的な怒り」と「対象のある怒り」があると指摘されています。疾患に伴う怒りについても,双極性障害では,気分エピソードと関連して生じる怒りと感情の不安定さに衝動性が相まって生じる怒りがあるとされたり,PTSDでは,発作的で衝動的であり敵意や攻撃性を伴わない怒りと強い敵意や攻撃性を背景に持つ怒りがあるとされたりしています。この他に怒りが問題になることがある精神疾患として,不安症,パーソナリティ障害,発達障害,認知障害も取り上げられるとともに,身体疾患についても論じられています。精神疾患はしばしば併存するものであり,複数の論文を続けて読んでいくと,怒りを介して疾患同士の関連が浮かび上がってくる面もあります。また,疾患ごとに怒りを適切に評価して対応する方略について述べられていることに加えて,怒りのマネジメントに焦点を当てた3編も含まれています。多くの読者にとって思い当たる点があり,臨床活動の参考になる特集ではないかと思います。
特集に加えて,本号には研究と報告,短報それぞれ1編が掲載されています。研究と報告は,医療観察法データベースの活用の現状を把握して課題について検討する論文,短報は,「ゴミ屋敷」化を繰り返して20年以上ひきこもり続けた自閉スペクトラム症患者の地域移行支援の1例の報告であり,臨床への教訓を含んでいるように思います。
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