特集 トラウマインフォームドケアと小児期逆境体験
特集にあたって
金生 由紀子
1
1東京大学大学院医学系研究科こころの発達医学分野
pp.1107
発行日 2019年10月15日
Published Date 2019/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205908
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虐待や家族の機能不全という小児期逆境体験(adverse childhood experiences:ACEs)が成人後の心身の機能に影響を及ぼすことが明らかとなってきた。家庭内の逆境に加えて,いじめをはじめとする家庭外の逆境もトラウマとなり,成長後までも心身の問題を生じやすくする可能性がある。場合によっては,本人が親となってからも問題が残存して,悪影響が次世代に伝わっていくことも考えられる。虐待やいじめは児童精神医学とその関連領域を中心に検討されてきたが,ACEsを含めたトラウマは稀でなくその影響が長期に及び得ることから,より幅広い検討が望まれる。
トラウマを体験していると,何らかのきっかけでトラウマ反応が生じることがあり,それを理解できない周囲が問題視して対応すると悪循環となることが考えられる。小児期の体験が成長後に影響してくるとしたら,本人でも理解できずにいっそう対応し難いかもしれない。それは,医療でも福祉でも教育でも起こり得ることだろう。そこで,トラウマが影響している可能性を念頭に置いて対応することが重要と認識されるようになり,トラウマインフォームドケア(trauma informed care:TIC)という概念が広がりつつある。TICは,心的外傷後ストレス障害のように明らかにトラウマの影響を受けている人に対する特定のケアだけでなく,すべての人に対するトラウマの理解とそれに基づく対応を含んでいるとされる。
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