特集 強迫についてあらためて考える
特集にあたって
金生 由紀子
1
1東京大学医学部附属病院こころの発達診療部
pp.889
発行日 2021年6月15日
Published Date 2021/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405206380
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コロナ禍が長引くうちに再発見や再認識したことの1つに,強迫はやはり一筋縄ではいかないということがある。診断は一律ではないものの,子ども時代に始まる強迫に悩む人たちの診療を担当していると,コロナ禍で不安が高まって強迫的になった人にも出会う。その中には,自分の排泄物や身体の一部に触れることを極度に嫌うと同時に,ドアノブをはじめとする周囲のものを平気で触っている思春期の男児が何人かいて,汚染に関する強迫という形をとっていても必ずしも均質ではないと感じられる。それどころか,強迫を軽減するために通院してきている一方で,手洗いや消毒が推奨される状況になり,以前から行ってきた汚染を避ける行動がようやく認められるようになったと自ら満足げに話す人が何人もいて,強迫の位置付けを考えさせられることがある。
DSM-5では,強迫で特徴付けられる一群の疾患が不安症群とは別に,強迫症(obsessive-compulsive disorder:OCD)および関連症群とまとめられた。DSM-5を作成する過程では,自閉スペクトラム症をはじめとする神経発達症,衝動制御障害や嗜癖性障害までを視野に入れて強迫スペクトラム障害が提案されていたが,最終的にはOCDを軸にかなり絞り込まれたものである。とはいえ,DSM-5のOCDでは自我違和性や不合理性の認識が必ずしも必要ではなくなっており,かつての強迫神経症より広い範囲を取り込んでいる。
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