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はじめに
1952年のLaborit,Deleyらによる統合失調症に対するクロルプロマジン療法の発見はインスリンショック療法や電気けいれん療法しかなかった精神科医療を大きく変革し,その後のハロペリドールの成功によって,ドパミン受容体を,より選択的に,より強力に阻害する抗精神病薬の開発競争が展開されることになった。しかし,これらの抗精神病薬は後に第一世代と呼ばれることになるが,治療域の投与量で薬剤性パーキンソン症候群を呈する頻度が高く,抗パーキンソン病薬の併用を余儀なくされ,長期投与後には遅発性ジスキネジアなどの神経系の副作用の発生リスクが高まることが指摘されることとなった。1993年以降,治療域の投与量では薬剤性パーキンソン症候群を呈することの少ないリスペリドンなどの抗精神病薬が続々と上市されるようになり,第二世代の抗精神病薬と呼ばれることになったが,その原型が実は1958年に合成されたクロザピンである。西欧の各国で上市され,1970年代初頭にはわが国でも治験がなされていたが,8名の死亡例を含む16名の無顆粒球症の発症がフィンランドから報告されたため,1973年に販売中止,治験中止となった。ところがMeltzerらはこの全く忘れ去られていたクロザピンに関する全米共同研究グループを組織し,268例の治療抵抗性統合失調症について厳密な血液モニタリング下でクロザピンとクロルプロマジンの二重盲検比較試験を実施し,1988年に治療抵抗性統合失調症に対する安全なクロザピン療法を確立した13)。その結果,1990年には米国や英国で,副作用モニタリング下での治療抵抗性統合失調症治療薬としてクロザピンは承認され,患者と家族に大きな福音となり,TIME誌1992年7月6日号でも取り上げられ,次々と承認する国々が増えていった。しかし,わが国はリスペリドンなどの第二世代の抗精神病薬が1996年以降,欧米に遅れても3〜5年後には次々と承認されていったにもかかわらず,その原型であるクロザピンの承認は欧米より19年間も遅れ,世界標準の治療抵抗性統合失調症治療薬が2009年まで導入されてこなかったのである。この小論ではわが国での承認の遅れた要因,承認に至る経過と今後のいっそう安全な適正使用法の検討ならびにクロザピンの作用機序の解明研究の現状と将来に向けた取り組みについて略述したい。
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