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はじめに
統合失調症は人口の1%程度の罹患率であるが,もっとも治療に費用がかかり5,43),家族の生活にも大きな影響を及ぼす3)。また,自殺率も精神障害の中で最も高い疾患の1つである26)。第2世代抗精神病薬(SGA)の時代になり,治療に反応する患者は増大し,より高い機能回復が望めるようになったとはいえ,一方では現在得られる治療を駆使しても,十分な機能回復が得られないまま人生を送らざるを得ない,「治療抵抗性統合失調症」と呼ばれる患者群が存在することも事実である。
治療抵抗性という臨床的概念が検討すべき重要な研究対象として浮かび上がったのは,いうまでもなく,クロザピンが治療薬として登場したことと表裏一体の現象である。したがって,治療抵抗性概念には,医療者が治療標的とすべきであるという実践的な部分と,クロザピンの有用性を操作的に規定するために必要であったという,2つの側面を持つ。治療抵抗性概念の定義自体歴史的な変遷をたどっており,その詳細は稲垣18)の論文に詳しい。治療抵抗性患者の数はその定義で変わってくるが,さらに,多剤を使用するわが国では諸外国の調査に比べ頻度が低く見積もられるように,処方習慣によっても大きく影響を受ける38)。
2009年7月,クロザピンはようやくわが国の精神医療の舞台に登場した。欧米に比べると約20年の遅れであり,近年問題となっているドラッグ・ラグの象徴的存在でもあった。また,欧米ではSGAの出現以前にクロザピンが使用され始めていたのに対し,わが国では長くクロザピンが存在しなかったことが,わが国の統合失調症の薬物療法をゆがめてきたという指摘もされている。一方,非定型性抗精神病薬のプロトタイプという側面は,この薬物の研究が新規の抗精神病薬の開発に多大な影響を与え続けている。
本稿では,クロザピンという数奇な運命を背負った薬物について,その概略を紹介することとする。ただし,誌面の都合で副作用や規制の紹介は省略し,有効性と有用性に限定せざるを得なかったことをお断りする。
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