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本号は「医療・医学の課題としての身体合併症」を特集しています。論文中にも書かれているように,身体合併症は,かつては精神科病院に長期入院中に発症する身体疾患のことを指し,主として精神科医療における課題でしたが,近年では,精神疾患の一般化に伴い,医療・医学全体の課題となっています。また,精神疾患と身体疾患とのかかわりは,従来考えられていたより広汎で多様であり,双方向性であることが明らかとなってきました。身体疾患が精神疾患のリスクを高めるとともに,精神疾患が各種の身体疾患のリスクを高めます。たとえば,統合失調症では,20年にも及ぶ衝撃的なmortality gap(平均余命の短縮)が存在し,心血管系疾患の罹患リスクが高いことが関与すると考えられており,その背景には薬物や生活習慣の影響だけでなく,共通の病因・病態による相互関連も示唆されています。「No health without mental health(Lancet, 2007)」とともに,「No mental health without physical health(Lancet, 2011)」が唱えられるところです。精神医療に従事する私たちは,身体疾患に適切に対処することだけでなく,それらを早期発見・予防することにも責を負うようになりました。
精神科医師は身体疾患をよく分からず,身体科の医師は精神疾患をよく知らないという状況は,ある程度やむを得ないところですが,両者がうまく協働して診療に当たることが重要です。本特集ではそこに力点を置いた論文が集められ,各分野においてどのように協働できるかを具体的に示しています。初期臨床研修制度が開始されて10年以上が経過し,多くの若い医師が,短期間ながら精神科研修を含む臨床研修を経験して,各専門分野で活躍しています。昨今は,若い精神科医は身体疾患にさほど臆することなく対処し,また身体科の医師は精神症状のある患者を忌避することなく診療するようになりつつあると感じます。協働の素地は整いつつあり,これは初期臨床研修の大きな成果と言えるのではないかと思います。
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