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時間の足は速く,本号が読者の手元に届く頃には,2015年はすでに終わり,新しい年が始まっています。しかし昨今は,情報量の増加や通信手段の変化に伴って物事全般に絶え間がなくなり,年が改まるからといって,何かが終わり,何かが新たに始まるという感慨も乏しくなったように思います。終えるものは良い形で終え,新しいことは清新な気持ちで迎えたいところです。
本号の「巻頭言」では障害者雇用における問題点が論じられています。日本の社会における寛容の欠如に伴う窮屈さの指摘には共感します。「特集:社会認知研究の最近の動向」は村井俊哉先生にご企画いただきました。社会認知研究は,認知心理学や脳科学の発展を背景に,ここ10数年の生命科学における大きな潮流として,精神医学にも多大な影響を与えてきました。また,精神医学領域における社会認知研究も盛んとなり,社会認知は精神疾患の診断と治療において不可欠な概念となっています。特集は6つの論文から成り,最近の研究成果を中心とした内容ですが,背景から分かりやすく説き起こしていて読みやすく,今後の発展の可能性もよく理解できます。この領域の研究の発展により,多くの精神疾患の理解がさらに深まることが期待されますし,一般社会における発達障害概念の膨張・氾濫による混乱なども科学的に整頓されていくことになるでしょう。「研究と報告」には,集団ヒステリーとしての過換気症候群が遷延した中学校と高等学校の事例,気分障害患者における強迫性パーソナリティ傾向と認知機能の関連,DSM-5による摂食障害の診断における問題点,を検討した3編が掲載されています。集団過換気症候群の論文からは,正確な臨床観察と記述・記録の力が感じられ,日頃のカルテ記載の大切さにも思いを致しました。「短報」は片側性の前部視床梗塞による認知障害が疑われた例,「資料」は本邦でも確立が望まれるstandby guardianship(親権代行制度)の紹介です。
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