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はじめに
表題の内容について論じる前にまず整理しておきたいのは,我々が患者に対し医師として振舞う際,正しく振舞うために,行動の指針として何に拠っているかということである。ほとんどの場合,我々はそれをことさらに意識することなく,半ば習慣的に行動の方針を決めていることが多い。したがって,ほとんどの場合,行動の根拠は何かという面倒な思考をめぐらさなくとも,行動を滞らせることなく正しい行動を選び取っている。
医師の行動の第一の根拠となるのは,言うまでもなく医学的エビデンスである。ここで言う医学的エビデンスとは,エビデンスレベルの高い科学的事実のみならず,個人の経験に基づく知見なども含めた広義の意味を指すと考えていただきたい。このような医学的エビデンスを用いることにより,我々医師は,患者の治療方針を決定する際に,ほとんどの場合患者にとって最善の方針は何かを「知っている」と言ってよい。そのような知識を基に,患者にとって最善の治療方針を提案し,医学的エビデンスに基づいた提案を行う。患者にとって悪い結果をもたらす可能性が一定以上あるものは言うに及ばず,ほとんどリスクのない治療内容であっても,治療方針に関して説明を行い,同意を求めるというインフォームドコンセントの手続きを踏むことになる。ただし,インフォームドコンセントが本質的に必要になるのは,治療における選択肢が複数あり,医学的エビデンスに拠って検討してもおのおののリスクが拮抗しているため選択肢を絞ることができない場合である。そのような際,治療方針の選択をするにあたって,患者の価値観や人生観などを加味した上で,それらを選択決定の材料とすることがインフォームドコンセントの意義となる。そうではなく,治療方針の選択肢が一つしかない場合には,インフォームドコンセントは形式的なものにならざるを得ない。特に,その治療方針がほとんどリスクを伴わず,高い確率で良い結果をもたらすことが医学的エビデンスにより示されている場合には,医師は説明にあたって同意を得られることを当然と考えており,万が一同意が得られないようなことがあれば,困惑して立往生するしかなくなってしまう。患者の同意能力を検討し,正しい選択をするよう支援する努力をする必要はあるが,そのような努力を経ても,同意が得られない症例は数多い。このようなときにはじめて登場するのが,医学的エビデンスに拠らない医師の行動指針であり,それは大きく分けて二つある。すなわち,法と倫理である。
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