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はじめに
本稿では自殺予防の潮流を展望する。あることの展望を述べるためには,これまで積み重ねられてきた歴史を振り返っておく必要がある。自殺予防の理念,方策,実践的活動の来し方について,まず世界保健機関(World Health Organization;WHO)の公式連携機関である国際自殺予防学会(International Association for Suicide Prevention;IASP)の歴史と活動を概観する。これによって,その創設者が自殺未遂者の治療にかかわってきた精神科医であったこと,自殺未遂者のケアには狭義の医学的治療だけでは不十分で心理社会的な支援が必要であること,自殺予防には医学だけではなく多くの領域や社会的活動が関与すること,「自殺は予防可能である」という理念がまだ十分に浸透しているとは言えないことなどを知ることができる。
次いで,日本自殺予防学会(Japanese Association for Suicide Prevention;JASP)の歴史と活動を概観する。JASPはIASPの公式な連携組織であるが,その発足はIASPの模倣ではなく,独自に起こったものである。JASPならではの特徴がいくつか挙げられる。1つは創設者が保健所長であり,発足当初から政府に対して,精神医学にとどまらない自殺予防活動に関する要望書を提出していたこと。もう1つは,発足当初からいのちの電話と協働し,いのちの電話が社会的活動を担う形となり,結果としていのちの電話と併せてIASP的な存在になっていたこと。また,社会全体が自殺予防の気運に欠く中,人材の不足もあり,年次学術集会の不開催をはじめ,活動の低迷期が長かったことも特徴の1つといえる。しかし,2007年以降,年次学術集会の開催が確立され,2016年5月18〜21日に東京で第7回国際自殺予防学会アジア・太平洋地域大会開催をIASPから任されるまでになった。
上記2団体以外にも自殺予防活動を主たる任務とする団体は他にもあるが,本稿では,精神科医が多く所属し,かつWHOと連携を持つこれら2つの団体に焦点を絞ることとする。そして,第7回国際自殺予防学会アジア・太平洋地域大会についても主要セッションを概説し,自殺予防の潮流について考察したい。
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