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はじめに
モーツァルトの有名なオペラ「魔笛」の第2幕で,鳥打ちの猟師パパゲーノが,愛する女性パパゲーナを失ったと思い,絶望して自殺を試みようとする有名な場面がある2)。ところが,3人の童子に魔法の鈴を使うよう勧められて鳴らしたところ,不思議なことにパパゲーナが現れ,2人は喜んで子どもを大勢作るぞ,と大はしゃぎし,パパゲーノは自殺をやめる。では,現実に自殺予防活動で「魔法の鈴」になり得るものはあるだろうか。
これまでのメディアと自殺に関する多くの言説は,特にマスメディアが先行する自殺事例を報じて群発自殺を惹起するといった,報道が自殺にもたらす負の影響を強調しており,実際それを確認する多くの事例もみられてきた33,39)。たとえばわが国では,1903年には旧制一高の学生が「人生不可解」なる遺言を遺して華厳の滝から投身自殺した際,これが知的な自殺として盛んに報道された後に群発自殺が生じた。1986年にはアイドル歌手が投身自殺した際,遺体写真を含めて詳細な背景を週刊誌が報じ,後に群発自殺が生じた。1993年には自殺手段を詳述した本がベストセラーとなり,そこに記載された自殺手段の模倣自殺が増加した。
また,近年登場したメディアであるインターネットが引き起こした自殺事例も記憶に新しい39)。2004年にはインターネットの自殺をテーマにした交流サイトで知り合った集団による練炭自殺事件があった。2008年には硫化水素を用いた自殺方法を詳細に語った巨大掲示板の書き込みから,これを模倣する群発自殺が生じた。最近でも,中学生の自殺からいじめ問題の責任追及報道が激化し,同年齢の群発自殺と思われる事例23)が生じている。
しかし最近,内外ではメディアの自殺予防効果の検討や,むしろ自殺予防にメディアを積極的に活用しようとする動きも出てきている。そこで本稿では,メディアが自殺を促進する可能性,自殺予防を促進する可能性の両方の報告を概観した後,自殺予防にメディアを活用する活動を紹介し,メディアの認知心理学理論もふまえて,今後のわが国におけるメディアを活用した自殺予防対策,すなわちメディアがいかにして「魔法の鈴」となり得るか,について些少の提言を行いたい。
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