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はじめに
精神医学においても以前の「医者-患者」という旧来の医学モデルに基づいた二者モデルを採用して治療しようとする医師も多い。もちろんのこと精神科以外の科では,「医者-患者モデル」は,「医者-病気(疾患)モデル」と等値であり,医師は患者の体にある「病気」についての治療の専門家であると認識されてきた。
しかしながら,企画者の指摘するように,現代では「治療において,家庭や家族の問題にまで立ち入らないとうまくいかない場合も多々あると思います」という指摘もある。たしかに他の科と違い,精神科を訪れる人々は必ずしも患者個人の場合だけでなく,患者と家族,あるいは家族のみが来院することがよくある。こうした各種の場合の初診面接の運用方法については,「家族への対応」6)と「初回面接の動機づけ」7)を参照いただければありがたい。また,今年の日本精神神経学会では精神療法委員会の企画で,「映像から学ぶ初回面接-家族相談編」のワークショップを開催することができ,多くの方が参集してくれた。これは筆者の企画案が精神療法委員会で通った結果に実現したものだが,多くの精神科医が,初診などでの家族相談の運用をどのようにしたらよいのか困惑しているということの表れではないかと推察した。
さらに企画者は,社会学者・大澤真幸氏の近代日本家庭の変遷を引用し,高度経済成長期からインターネットによる絆が家族関係以上に重視されているかのような現代までの変化に注目している。こうした思いの果てに,「継続的な精神科臨床からみて,家庭もしくは家族の変容はあるのか? あるとしたらどんなふうに変容し,どのような形で臨床場面に表れているのか? ないとしたら何が変わっていないのか? それはなぜなのだろうか?」という疑問を各執筆者に投げかけている。
社会学者である大澤氏(ただし氏は家族社会学が専門ではない)が日本家庭の変遷に注目し,その特徴を表すタイトルを付けて記述しているようだが,筆者のような一開業医で日々の臨床に明け暮れているような者が,その小さな臨床の窓から見えてくる時代光景を描写しても客観性に欠ける。やはり家族社会学者の調査研究に勝るものはない。しかし,こう言い放ってしまっては企画者の期待を大いに裏切ることになるので,断片的で,エッセイ風になることを恐れず,筆者の家族・夫婦(あるいはカップル)を主な対象としてきた臨床の小窓から微かに垣間見た来談者たちの時代的変化の特徴を拾ってみたい。ただし,この30年に及ぶ変化であり,来談者たちはすべて東京近郊の比較的裕福と思われる来談者たちである。ちなみに筆者は自由診療の完全予約制で,初回面接に90分間,その後の面接も平均毎月1回のペースで90分間を割いている。
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