巻頭言
統合失調症への偏見とその難治性の克服に向けて
倉知 正佳
1,2
1福島県立医科大学会津医療センター
2富山大学
pp.740-741
発行日 2016年9月15日
Published Date 2016/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205225
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偏見とは,「一方に偏った見解」(明解国語辞典),あるいは「公正を欠く見解」(新明解国語辞典)と説明されている。統合失調症に対して,一般の人々の偏見がしばしば指摘される。しかし,その偏見には,医学的疾病観や医療者側の見解に由来する部分もあるのではないだろうか。それらが一方に偏り,公正さを欠いていたということはないだろうか。ここでは,まず,この問題を取り上げ,ついで,統合失調症の難治性の克服に向けて述べることにしたい。
第1に問題になるのは,精神病的症状の位置付けについてである。近年の研究からは,初診時に重視される陽性の精神病的症状(幻覚,妄想,自我障害,思考障害など)は,社会的転帰とは関連しないことが明らかとなっている。実際に,5年後に就業していた人々の約4分の1は,精神病的症状を有していたという1)。筆者が精神科医としての道を歩みはじめた頃,一般の精神科病院に当直に行き,夜回診をするとかなりの患者さんたちから,自分はもう退院できるから,退院させてほしいという要求があり,その対応に苦慮したものであった。精神病的症状と社会的転帰が平行しない以上,精神病的症状が残存しているからといって,退院が時期尚早とはいえない。今日からみると患者さんのほうが正しかったのかもしれない。この点から,内田クレペリン検査が社会適応度を予測するという報告4)は大変示唆に富むものである。現代では,精神病的症状の成立は,神経回路の障害という視点から解明が進められている。特定の神経回路障害という考え方からは,精神病的症状は,その人全体からみれば,部分的現象とみなされよう。
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