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はじめに
災害や犯罪,事故といった重大イベントに人が曝された後,しばしばその人は強いトラウマ反応を示す。典型的には外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder;PTSD)が,それに当たるのは周知のごとくである。またPTSD症状が自然に改善・消失することもあれば,数か月から年余にわたって遷延化することも稀ならずある。またPTSDはうつ病や薬物依存といったより深刻な精神疾患を併存することもよく知られており,自殺率なども他の不安障害より高い傾向にある。すなわちPTSDを発症すると,あるいは遷延化すると,罹患した人の社会機能や生活の質に重大な影響が及ぶことが懸念されるのである。
そのような理由で,早期介入によってPTSDを予防できないか,あるいは予防できないまでもその影響をできる限り弱めることができないか,そのような検討は学問的にも,実践の場でも少なからずなされてきた。そこで本稿では,まずはPTSDに対する予防や早期介入の効果について概観してみたい。このような試みは大きく次の2つに分けられる。1つは薬物療法を中心とした生物学的アプローチ,もう1つはさまざまな形の心理社会的アプローチである。ただし,そのような早期介入を実際にどのように行うべきか,あるいは実際にどのように行われているのか,このような点は,PTSDの介入効果を考える上で非常に重要な要素である。なぜならば,後述するように,介入効果が統制群比較研究などで明証されている場合でも,それが現実の場(real world)で用いることが難しければ,有用性があることにはならないからである。
そうした意味もあって,わが国で現在試みられている早期介入や早期ケア実践の試みを,本稿でも2つ紹介したい。このような早期介入が最も求められている領域の1つは,学校現場である。学校現場では,時として自殺や暴力等の危機的事態が発生する。その際には生徒や学生,教師など関係者に大きな心的外傷を与える。また,もう1つの領域は犯罪現場である。犯罪が被害者にもたらす心的外傷が甚大であることは言を俟たない。わが国のこれらの領域で,今どのような心理社会的早期介入あるいは早期ケアの試みがなされているかを紹介したい。一方で,大規模自然災害発生時における被災者への早期介入・ケアのあり方については,今般の東日本大震災以降すでに多く語られてきたので本稿では割愛する。
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