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はじめに
統合失調症における認知機能障害は,陽性症状や陰性症状とともに中核症状の1つであると考えられており,注意,記憶,遂行機能など広範な領域にわたって認められる2,6,8,11)。薬物療法の進歩によって陽性症状の改善はかなりの程度認められるようになったが,患者の社会参加の促進は大きな課題として残っている。そうした社会参加における困難には,陽性症状や陰性症状よりも認知機能障害が強く関連し,認知機能はその後の就労や日常生活における自立を含めた機能的転帰を予測するということが報告されてきている7,15)。したがって,認知機能の改善は患者の機能的転帰にポジティヴな効果を及ぼすことが期待される。そのような背景から,認知機能に直接介入する心理社会的アプローチとして,認知機能改善療法の開発が進められている22)。認知機能改善療法は,「効果の持続と般化を伴った,認知過程(注意,記憶,遂行機能,社会的認知ないしメタ認知)の改善を目指す行動的トレーニングに基づいた介入」21)と定義される。心理教育,社会的技能訓練および認知行動療法などを含む心理社会的アプローチ全体の中では,認知機能改善療法はより基本的な神経心理学観点からも捉えられる認知機能そのものの改善に着目したより基礎的なアプローチといえる。欧米では,数多くの技法ないしプログラムが開発されてきており,プログラムごとに効果研究が進められるとともに,メタ分析によって治療効果が検証されてきており,認知機能の改善効果が示されている14,21)。近年,わが国でもいくつかのプログラム4,10)が開発および翻訳されてきており,今後の発展が期待される。
統合失調症への認知機能改善療法プログラムの1つとして,カリフォルニア大学のTwamleyらが開発した代償的認知トレーニング(Compensatory Cognitive Training;CCT)があり,その有効性はランダム化比較試験によって繰り返し確認されている12,17,18)。CCTは認知機能改善療法の中では,より実践可能性に重きを置き,ブリーフに行え,コンピューターを使用せず,少数グループで実施可能な代償的方略を重視したアプローチである。筆者らは,原著者の許可を得てCCT日本語版を作成した。本稿では,CCTの概要と,CCT日本語版のプログラムについて紹介する。
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