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はじめに
超高齢社会に対応するべく,国は多額の税金を投入しているが,その高齢化の背景の1つが少子化であると言うことができ,実際,2014年のわが国の出生数は13年より2万人以上減り,過去最少の100万台,65歳以上となったベビーブーム世代の年間出生数,260万台の40%以下となってしまっている。このため,2025年までには沖縄を除くすべての都道府県で人口減少が始まると予測されている。これまでも少子化対策については,さまざまな提案がされているが,危機的状況を打破するためにはいかに財政投資を行い実行に移すかが喫緊の課題である。2015(平成27)年3月20日に閣議決定された内閣府の少子化社会対策大綱は,少子化社会対策基本法に基づく総合的かつ長期的な少子化に対処するための施策の指針であり,2004,2010(平成16,22)年に続き今回が3回目の策定である。結婚,妊娠,子ども・子育てに温かい社会の実現に向けて,各段階に応じた切れ目のない支援と社会全体での取り組みを目標としており,各段階に応じた支援では,周産期医療の確保・充実などと産後ケアの充実を推進することが取り上げられている。実際,妊娠,出産の時期は女性の生涯の中で最も精神障害の発症が多く,女性精神疾患罹患の人口動態調査では周産期うつ病の罹患率は20%弱に及んでいる。また,妊娠・分娩・産後期は精神疾患が最も発症・悪化・再燃しやすいこともよく知られている。しかも妊産婦の精神疾患発症を含めた強いストレス負荷は,胎児や乳幼児,その後の子どもの発達や精神疾患発症の予後に大きく影響することが大規模前方視的研究で明らかにされている。したがって妊娠,出産・産後のメンタルヘルス対策は医学的な少子化社会対策の根幹を成すものと言える。日本産科婦人科学会(以下,産婦人科学会)と日本精神神経学会(以下,精神神経学会)は,周産期のメンタルケアおよび治療について診療報酬改定要望事項を共同提案することになり,内科系学会社会保険連合(以下,内保連)としてもこの取り組みを支持することになった。
そこで,本稿では両学会の提案内容とその提案を通して実現しようとしている周産期メンタルケアについて概説し,議論を活発化させて,実現を図っていくこととしたい。
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