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はじめに
米国有数の大都市において未曾有の大被害を引き起こし,全世界に衝撃を与えた米国の同時多発テロ事件,いわゆる,「9.11(Nine Eleven)」から早くも4年の月日が経過した。
本事件により3,000名を超える多数の人々が犠牲となり,事件発生直後から負傷者の救護,安否確認などが懸命に取り組まれたが,混乱が渦巻く中で作業は遅々として進まず,突然の大惨事への対応の困難さを世界中に認識させる結果となった。
その後,本事件を契機として世界各地で危機管理が見直され,テロ事件や災害時を想定した対応マニュアルの策定,避難・救助手段の確保,平時における訓練の実施,警備治安対策の強化,メンタルヘルス対策を盛り込んだ救援活動が新たな世界的潮流となってきた6)。
精神医学界においては,1994年に米国精神医学会がDSM-IVに外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と治療を掲載,これを中心とした治療戦略を国際トラウマティック・ストレス学会が2000年に公表,飛鳥井らにより2005年に和訳されるなど2),PTSDとその周辺の話題をめぐるフレームワークが徐々に形成されてきた。
他方,世界各地の在外公館(大使館・総領事館)が対応した邦人援護件数は2004年度に16,000件を上回り,援護案件の約5%は病気に関連し,その約3割をメンタルヘルス関連問題が占めている。これには,生死にかかわるような強い衝撃を受けて発症するPTSDや他の精神疾患など,本格的なケアを必要とする事案が含まれ,在外公館における医療支援の役割が年々大きくなっている8)。
そこで,本稿では本事件の被害の中心となったニューヨーク市(以下「NY市」)における初期対応,PTSD関連の調査研究の成果,ならびに在外公館における取り組みを概括し,海外におけるメンタルヘルスケアの基本課題を論じた。
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