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精神疾患のゲノム研究
精神疾患のゲノム研究は,神経疾患研究を成功モデルとして踏襲した。すなわち,Huntington舞踏病など神経疾患の臨床所見が責任遺伝子の配列変化に還元できたのだから,精神疾患のさまざまな状態像も遺伝子配列で説明できるはずだと考えたのである。統合失調症で初めての連鎖解析は,1988年にLondon大学のRobin SherringtonらによってNatureに発表された11)。彼らは,英国とアイスランドの7つの多発家系を用いて,5番染色体長腕に疾患と連鎖する2つのDNAマーカー(配列の個人差)を同定した。ところが,2003年までに報告された統合失調症の連鎖研究では,報告者によって連鎖領域(疾患と関連する染色体の部位)が食い違い,それらはほぼすべての染色体に広がり19か所にもわたったため,原因遺伝子を絞り込むことができなかった。
そこで,連鎖研究と並行して,候補遺伝子の関連研究も取り組まれた。筆者らも,ドパミン仮説に基づいてドパミンD2受容体遺伝子を解析し,多型(遺伝子配列の個人差)を初めて同定し1994年に関連を報告した2)。以後2011年までに1,008遺伝子において8,788多型が報告され,287のメタ解析が行われた。しかし,ほとんどの遺伝子多型で関連のオッズ比は1.5以下だったのである13)。統合失調症は,およそ100人に1人が罹患するとされている。これは,通行人を無作為に100人集めてくると1人は統合失調症の経験者という意味に等しい。オッズ比1.5とは,関連有りと報告された遺伝子多型を持った人ばかりを100人集めてくると,1.5人が当事者ということである。すなわち,遺伝子多型の発症への影響とは,わずか0.5人分の違いに過ぎなかったのである。
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