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はじめに
双生児研究から算出された統合失調症の遺伝率は0.81(95%CI=0.73~0.90)であり26),高血圧の0.29,II型糖尿病の0.26と比較しても遺伝要因の占める割合が大きい疾患である。そのため,原因遺伝子を発見することが病態解明・治療法開発のうえできわめて重要であると考えられ,1990年代以降,遺伝子研究が精力的に行われてきた。これまでに興味深い成果が得られつつあるものの,当初期待したほど明快な証拠が提示されたとは言い難い。
統合失調症の遺伝子研究では,主に連鎖研究と関連研究が行われた。連鎖研究は罹患同胞対や家系などを用い,染色体上で位置的(ポジショナル)に疾患と関連する領域を絞り込む手法である。1990年代には神経内科疾患の連鎖研究がめざましい成果を上げ,次々と神経変性疾患の遺伝子が同定された。一方,統合失調症では予想外に多くの染色体座位が連鎖を示し,Lewisら17)が発表した20編の連鎖研究をまとめたメタ解析では11もの染色体領域が抽出されている。神経疾患では,①染色体上の狭い領域に連鎖のピークが得られ,②その領域から病原遺伝子が同定され,③当該遺伝子から罹患者にのみ変異が発見されるという段階で研究が進展した。統合失調症研究でも同様の進展が期待されたが,早くも連鎖研究の段階で困難と直面した形となった。ひとつには統合失調症が病理所見や生物学的指標に基づいて決められた単一の疾患ではない点にある。たとえば,11の連鎖座位にそれぞれ関連遺伝子が存在し,異なった病態を形成しながらも,幻覚や妄想といった表現型だけから同一の診断カテゴリーに分類されている可能性も考えられる。また,診断の基準も混乱要因の一部となった。家系内でどこまでを発症者として解析するか,たとえば統合失調気分障害や統合失調症型人格障害まで含めると,連鎖の強さ(ロッド値)が上昇することも報告されている23)。
それでも連鎖が報告された染色体6p21-p25からdystrophin(DTNBP1)25),8p11-p22からneuregulin1(NRG1)24),13q34からD-amino acid oxidase activator(G72/G30)3)が関連遺伝子として同定された。これらは有望な候補遺伝子として注目されながら,疾患と関連する一部の多型が報告者間で一致せず,関連するhaplotypeが報告によって異なった多型で構成される,関連するアレルが一致しないといった矛盾点を含んでいた。
こうした統合失調症の遺伝子研究の混迷において,10年かけて関連が確定された遺伝子多型の自験例と,稀な症例を出発点とする研究に期待される成果について本稿で論じる。
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