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はじめに
近年の精神医学研究は生物学的研究が主流を占めており,「日本生物学的精神医学会」のように生物学的研究そのものを目的とする学会はもちろんのこと,精神医学に関連する学会の多くで生物学的研究が主体となっていることは周知のとおりである。そのことは本誌「精神医学」の投稿論文を見ても,その多くが生物学的研究であり,精神病理学的研究論文が少ないことからも明らかである。
それでは,生物学的研究の将来は赫赫たるものであろうか。ここでは生物学的研究から得られるものとその限界,ならびに可能性について,主として精神病理学との対比において考えてみたい。というのは,従来から,精神医学の領域では生物学的アプローチと精神病理学的アプローチが研究の2大主流であること,同じ精神医学研究でありながら,互いに相手を異質な世界に属するかにとらえ,棲み分けて,生物学派と精神病理学派の2つの陣営に分かれているかの観があることも意識して,あえてこの2つを対峙的にとらえ,生物学的精神医学研究の抱える問題と将来を考えてみたいと思う。
ところで,ここでいう「生物学的研究」,「精神病理学的研究」とはあくまでも研究方法を指しており,その意味では精神疾患の「生物学的アプローチ」「精神病理学的アプローチ」とでもいうべき意味であることをはっきりさせておきたい。そしてまた,精神病理学についても,精神症状を持つ一人の“ひと”の症状の成り立ち,病理を明らかにして,その“ひと”を理解しようとする「臨床精神病理学」的方法を指すものであることをお断りしておきたい。
なお,本稿の基本的発想はかつて,基礎医学の道から精神医学の領域に移り,それも実験研究から臨床研究へ,そして社会医学的問題へと迷走を続けた筆者のひとり(山内)の極めて体験的な考えによるものであり,データに基づく,いわゆるevidence basedなものではないことをあらかじめご了承いただきたい。
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