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はじめに
18世紀以前,統合失調症の患者は宗教施設や救貧院などに収容され,精神発達遅滞,孤児,痴呆患者などといっしょに手当てされていた。クレペリンが,1896年に統合失調症の概念を「早発性痴呆」としてまとめた時,その治療観は悲観的であり,病像・経過が多様であってもいずれは人格荒廃に至ると記された。このように不治の病と記された統合失調症が,可治の疾病として現在のように積極的に治療されるようになるには,1951年のクロールプロマジンの発見をきっかけとする抗精神病薬の時代が到来したことが大きな要因と考えられる。
抗精神病薬によって臨床上もたらされた顕著な影響は,統合失調症の予後の好転だった。1930年代の米国で報告された統合失調症の寛解・軽快率は21~35%だったが26,27),1970年代には61~70%に上昇している32,37)。わが国でも,1939年に寛解・軽快率が33.5%と報告されたが10),1970年代には79~80.5%に上昇している15,40)。家族療法や生活技能訓練など心理・社会的アプローチの発達も予後の好転に寄与したことは事実であるが,抗精神病薬が普及した1960年代を境に寛解・軽快率の大きな上昇がみられており,薬物療法の果たした影響は大きかったと考えられる。
抗精神病薬の誕生は,臨床上の影響のみならず統合失調症研究へも大きな貢献を果たした。多くの「定型」抗精神病薬がドーパミン受容体の遮断作用を共有している事実29)が,統合失調症の「ドーパミン仮説」の根拠の1つとなった。1970年代に提唱された「ドーパミン仮説」は,死後脳研究,動物モデル,画像解析,遺伝子解析など多くの分野で研究を啓発した。
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