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「精神医学の基盤」と名付けられたB5判238ページからなるムックの第1巻である。この巻では「薬物療法を精神病理学的視点から考える」というテーマが特集として取り上げられている。編集にあたっているのが,それぞれ精神科薬物療法と精神病理学において,わが国で主導的な立場にいるお2人である。そそっかしい読者は表紙を見て「精神療法と薬物療法」という精神医学における恒例のテーマについて論じたものと勘違いしてしまいそうであるが,そうではない。そもそも精神病理学と薬物療法とでは目指す方向が異なっている。精神病理学はそれが治療に直接役立つかどうかは本来問題とされない。一方,薬物療法は治療に役立たなければ存在意味がない。しかし,患者の精神病理が薬物の効果にしばしば大きな影響を与えることを我々は知っている。一例として薬物療法におけるプラセボ効果が挙げられるであろう。プラセボ効果は真の薬物効果とはいえないが,患者の精神病理によって治療に対してポジティブに働くこともあれば,逆にノセボ効果としてネガティブに働くこともある。本書では精神病理学の側から薬物療法をどう考えるべきかを,多くの研究者に問いかけ,それに対するさまざまな回答が集められている。
全体は,編者2人による「薬物療法の進歩と精神病理学の展開」と題された対談に始まる。この対談では2人のエキスパートが,なれ合いの議論ではなく,対立すべきところは対立して論じ合っている。緊張感を持った対談で,両者の真剣さが印象的である。これに続く部分は大きく2つに分かれている。第Ⅰ部は「薬物療法の精神病理学的意義」とされ,10編の論文が含まれている。精神病理学と薬物療法について正面から論じた論文が4編あり,残りの6編は各精神疾患における薬物療法の精神病理学的な意義について論じられている。後半の第Ⅱ部は「精神科治療のメカニズムと精神病理学」と題され,6編の論文が含まれている。しかし,本書のテーマは,それぞれの執筆者にとっても容易な仕事ではなかったように思われる。真正面からこの問題を取り上げて論じる著者もいれば,一見それとは関係のない議論に始まり,最後にこの問題に答えるという著者もいる。一部には,精神病理学的視点を症状論的な視点と解釈して論じている著者もいる。しかし,全員がこの問題に対して真摯に取り組んでいる姿勢は明らかである。
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