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はじめに
かつて,職場のメンタルヘルス(当時の表現では「産業精神衛生」)が,「精神障害者の差別を合理化する動きであり,企業から排除しようとするものである」と,一部から糾弾に近い扱いを受けた時代があった6,11)。この議論の対象となった精神障害は,主として統合失調症(精神分裂病)などの精神病であり,現在職場のメンタルヘルス対策の中で問題となっている,症状としては比較的軽症である精神障害とは,期待できる(少なくとも期待できるようにみえる)業務遂行能力の面でかなり異なっているとは言えよう。しかし,それにしても労働者のメンタルヘルスが多くの企業で産業保健上の主要問題のひとつとなり,1次予防を含めた幅広い対策のあり方が議論されるようになっている今日の状況は,それがメンタルヘルス不調の増加により必要を迫られたものであるにせよ,長くこの領域に携わってきた者にとっては,懸念をも含んだある種の感慨を抱かされるものであろう。そしてそれは,本論の主題である障害者雇用の拡大にもあてはまる。
周知のように,2018年より精神障害者保健福祉手帳を有する精神障害者の雇用が義務付けられる予定となっている。2006年に精神障害例の障害者法定雇用率への算入が認められ,精神障害者の雇用は増加しているが,その就業率は,すべての就労年齢にわたって,身体障害,知的障害よりも低値であり(図1),雇用されている人数も,他の障害に比べてきわめて少ない。就労が長続きせず,早期に退職に至る例が少なくないことも指摘されている。精神障害者の就労状況を調査した研究からは,12か月にわたり同一企業に在籍することに関連している事項として,適応指導の有無,求人種類,障害開示,チーム支援の有無,企業規模,年代が挙げられており,精神障害者は,他の障害者に比べ,事業者にとって雇用管理上の問題が大きく感じられる傾向のあることも報告されている7)。
最近は,精神障害により休業した労働者の職場復帰のハードル,すなわち職場が職場復帰を認める要件(病状の回復度,見込まれる業務遂行能力の水準)が高くなってきていることも,一部で指摘されている。精神障害者の雇用は,そう楽観視できる要素ばかりがあるわけではないと言える。
現状において,一般の企業が障害者を雇用している形態(一般雇用の場合)は,他の社員に交じって就業させる形,特定の部署に該当者を集める形,特例子会社を設立し,そこを障害者雇用の場とする形などがある。
これらの形態は,障害者雇用の意義,障害者雇用枠で雇用された障害者の働きやすさと業務継続性,実際に雇用精神障害者に与えられる仕事・役割,企業側の責任と負担などの多くの角度からその望ましさを検討すべきであろう。
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