動き
わが子への医療拒否は児童虐待か?
池田 由子
1,2
1聖徳学園短大保健センター
2日本大学医学部精神科
pp.1052-1053
発行日 1988年9月15日
Published Date 1988/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204589
- 有料閲覧
- 文献概要
精神衛生の立場から児童虐待の展望を本誌に書いたのは1977年であったが,その後児童虐待の存在は次第に知られるようになってきた。児童虐待の一つのタイプとして,保護の怠慢・拒否(neglect)があるが,これは捨て子や,親が子どもに必要な衣食住の世話や医療を与えないことをいう。このneglectの特殊な事例として「エホバの証人」派の信者である親が,子どもの治療に必要な輸血を拒否する事件が外国でしばしば報告されている。わが国でも同様の事件が起こったのは,1985年のことであった。
「エホバの証人」(Jehovah's Witness)の本部は米国にあるので,私は当時米国の専門家たちにこのような事例への対応をたずねてみた。その代表的な回答は次のようなものであった。「精神的に責任能力のある成人が,生命に危険のある状態で輸血を拒否するときは,その人は拒否の陳述に署名をし,その結果がどうなろうともそれは自分自身の決定による。しかし,もし子どもや精神的に責任能力のない成人が,生命に危険があり,輸血が必要なのに,親や監護者がそれを拒むときは,医師はその必要性を宣言し,裁判所の命令を得て輸血を行い得る。その時裁判所は法的監護者として機能する」というものであった。当時,私の感じた疑問は,医療機関にまで達しない事例や専門家に気づかれない事例があるのではないかということであった。
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.