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筆者はここ10数年,アルコール依存の症候論の明確化に努め,「アルコール依存症」という疾患概念を提案してきた6)。しかしこうした模索の末にアルコール問題を「疾患—治癒」のモデルでとらえることに対する深刻な疑問にたどりついてしまった。アルコール依存症の症候論の基盤には飲酒行動上のコントロール喪失という概念があるが,これの生物学的病因となると未だにブラック・ボックスの中にある。またアルコール依存症をアルコール依存という連続的な過程の中でとらえようとすると,その境界(疾患定義)は曖昧なものにしかなりえず結局,「社会がそれを決める」という事例性の霧の中に霞んでしまう。それに薬物依存というものは本質的に再燃(relapse)のありうるものであるから,アルコール依存症という症患には治癒像というものを想定できず,これが「患者」を悩ませたり,絶望させたりすることになる。
こうした無理を承知で疾患モデルに固執する必要はないのではないか。むしろ「嗜癖・習慣—行動修正」という別のモデルに即して,他の嗜癖行動と同列に薬物依存一般をとらえ直してみてはどうか,というのが最近の筆者の考え方である。筆者のいう嗜癖行動とは不適切な習慣(癖)が悪循理するようになった状態をいい,薬物依存のみでなく,ギャンブル癖,盗癖,不適切な摂食習慣(拒食,過食,習慣性嘔吐など),吃音,仕事やセックスにおける不適切な習慣(ワーカホリズムと怠業,セクソホリズムと性行動回避,窃視癖など)がこれにあたる3)。更にこの中には対人関係上の不適切な習慣,夫婦,親子関係の一定の歪み,そこからもたらされる配偶関係困難,登校拒否,家庭内暴力,乳幼児虐待が視野におさまってくる7,8)。つまり,習慣モデルに即してアルコール依存をみることにより,アルコールというagentを越えて種々の行動障害とのつながりが見えてくるという利点がある。
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