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I.はじめに
慢性疾患には自然治癒が多く認められ,治療効果と自然寛解との区別が難しい。アルコール症(alcoholism)もまた慢性に経過する障害であって,治療効果を自然経過から峻別することは困難である。慢性疾患の場合,この辺の議論に結着をつけるのは長期縦断研究である。同じ精神障害でも,精神分裂病については,長期予後についての資料が蓄積され,その自然経過の大略がつかめるようになってきたのに対し,アルコール症ではこれが大幅に遅れた。ようやく1980年代に入って,Vaillant, G. E. 63)による超長期経過研究が報告され,いくつかのcohort(観察対象集団)からのアルコール症の発症と経過と転帰が明瞭になってきた。そしてこの報告は,従来の短期で不適切な予後研究に基づく,誤解や思い込みの誤りを明らかにし,アルコホリズムの臨床に携わる者たちに深刻なショックを与えた。小論では,まず近年のアルコール症治療の動向について概観し,次いでアルコール症の自然経過に関するVaillant報告を紹介し,最後に自然経過と治療効果との関連を検討してみよう。
小論における用語法についてVaillantの用い方に準じている。Vaillantは「アルコール乱用(alcohol abuse)」と「アルコール依存(alcohol dependence)」の用語を,DSM-Ⅲ4)に従って用いているが,時々「アルコール症(alcoholism)」という古い慣用語も使っている。それらの使い分け方をみると,アルコール乱用とアルコール症をほぼ同義としており(ただし,そう断ってはいない),アルコール依存はアルコール症(=アルコール乱用)の一部を指すものとしている。DSM-Ⅲでいう「アルコール依存」は,ICD第9版でいう「アルコール依存症候群(alcohol dependence syndrome)」に相当し,これは我が国の厚生省診断基準2)で「アルコール依存症」と呼ばれているものと同義である。
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